くるまのなかで

彼の言葉から隠し事は複数あると睨んでいたが、どうやらもうひとつはここにあるようだ。

奏太は全部話すと言った。

言いたくなさそうにしてるが、ごまかすなんて許さないという気持ちを込めて、私は再び彼を睨む。

奏太は観念したように口を開いた。

「実は俺、今、学校通ってて」

「……は?」

学校? 高校を卒業して、専門学校もちゃんと卒業して、資格も取ったのに?

これ以上どんな学校に通う必要があるというの。

「学校っていうか、大学なんだけど」

「大学?」

あまりに意外で、狭い車内なのについ大きな声を出してしまった。

奏太は「ちょっと待ってて」と言って、いったん私の車から降りた。

隣に停めたシルビアに置いていた財布を手に取り、すぐに私の車に戻る。

財布からカードを一枚抜き、私に手渡してきた。

覚えのある触感と配色だ。

「これって……!」

「梨乃だって、何年か前まで同じカード、持ってただろ」

奏太がちょっと照れくさそうに肩をすぼめる。

彼が私に手渡してきたのは、私が数年前に卒業した大学の学生証だ。

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