くるまのなかで
「うん。といっても、マンガみたいに今さら数学とか英語ができるようになるわけじゃないから、社会人推薦枠で論文の試験受けて、2年目でやっと受かったんだけど」
「いやいや、十分マンガみたいだよ……」
本なんてまともに読んだことないと豪語していた奏太が、論文だなんて。
きっと私と別れている間、かなりの努力をしたに違いない。
「昔あんなだった俺が今になって大学で勉強してるとか、なんとなく気恥ずかしくて。社長と由美と両親以外には言ってなかったんだ」
奏太は照れくさそうに頭を掻き、私からカードを取り返してルームランプを消灯した。
「だからって、私にまで隠さなくてもいいじゃん」
「梨乃だから、ますます言えなかったんだよ。同じ大学の同じ学部だし」
「どんな勉強してるの?」
「普通に昼間コースと同じ必修科目と、地域経済学のゼミ。個人の自動車整備工場が大手に負けずに生き残っていくための経営戦略を、教授の力を借りて研究してる」
なんだか、すごい。
以前にも感じた仕事に対する意識の高さが、こんなところにも発揮されている。
推薦で入学したけど生活のためのアルバイトとの両立に必死だった私は、講義なんて単位さえ取れればいいという気持ちだったし、ゼミだって適当に選んで、与えられたテーマで何となく卒論を書いて卒業した。
学力とか知識の点では私の方が奏太に勝っていると思っていたけれど、とんでもない勘違いだった。
大学がいいとか悪いではなく、奏太は私の想像をはるかに超えて、人間的に大きく成長している。