くるまのなかで
私から振ってやった。
これでおあいこだ。
そう自分に言い聞かせるが、別れは別れである。
二度目にして短く浅い交際だったとはいえ、再会してからの本気度が高かった分、ダメージが大きい。
8月中旬。
別れてから1ヶ月経ったが、あれ以来、奏太から連絡が来ることはなくなった。
別れたんだから当然だが、理不尽に腹立たしく思う。
私のこと、好きって言ったじゃない。
覚えとけって、そっちはこれからもそのつもりだってことじゃないの?
通勤時、県道65号線。
宇津木自動車の前を通過するたびに、そして白のシルビアを見るたびに、やりきれない気持ちに襲われる。
彼の独身証明書は、今でも私の車の中にある。
証明書には、彼の氏名、生年月日、本籍地は掲載されているが、現住所は書かれていない。
付き合っていたのに、私は彼が今どこに住んでいるのかさえ知らないのだ。
私の知らない場所で女や子供と暮らしているくせに、一体何を信じろと?
あんな男、こっちから願い下げだ。
……だからさっさと忘れたい。