くるまのなかで




私から振ってやった。

これでおあいこだ。

そう自分に言い聞かせるが、別れは別れである。

二度目にして短く浅い交際だったとはいえ、再会してからの本気度が高かった分、ダメージが大きい。

8月中旬。

別れてから1ヶ月経ったが、あれ以来、奏太から連絡が来ることはなくなった。

別れたんだから当然だが、理不尽に腹立たしく思う。

私のこと、好きって言ったじゃない。

覚えとけって、そっちはこれからもそのつもりだってことじゃないの?

通勤時、県道65号線。

宇津木自動車の前を通過するたびに、そして白のシルビアを見るたびに、やりきれない気持ちに襲われる。

彼の独身証明書は、今でも私の車の中にある。

証明書には、彼の氏名、生年月日、本籍地は掲載されているが、現住所は書かれていない。

付き合っていたのに、私は彼が今どこに住んでいるのかさえ知らないのだ。

私の知らない場所で女や子供と暮らしているくせに、一体何を信じろと?

あんな男、こっちから願い下げだ。

……だからさっさと忘れたい。

< 170 / 245 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop