くるまのなかで
小学生が夏休みであるこの時期は、我々『すずらんテレビさぽーとこーる』の繁忙期である。
「ケーブルテレビが映らなくなってしまった」
「貸し出している機械のハードディスクに録画していたはずの番組が全て消えてしまった」
「リモコンを破損させてしまった」
「子供たちがテレビばかり見て宿題や勉強をしないから、解約したい」
お子様にご利用いただく機会が増えるため、誤作動や破損など、ナーバスな問い合わせが多くなる。
お客さまの窓口になるコミュニケーターのみんなも、SVである私や奈津さん、そして枕木チーフも、この時期は本当に神経をすり減らして働いている。
問い合わせの件数やクライアントへのフィードバックが普段の何倍にもなるため、私が帰宅できるのは深夜1時過ぎ。
普段は週に2日休めるが、この時期だけは休日出勤を避けられず、実質週休は1日である。
奏太のことを頭から追い出したい私にとって、これくらいの多忙さでちょうどいい。
やらなければならないことは山ほどあるし、私を騙していた男のことなんて嘆いている暇などない。
そう思いながら気張って勤務していたのに、とうとう私が恐れていた時期がやって来てしまった。
さぽーとこーるは、明日から三日間、お盆休みである。