くるまのなかで
奏太がモト先輩に相談をしていたということは、私と別れるかどうかを悩んでいたということ。
悩んでいたということは、続けることも考えてくれていたということだから、嫌われていたわけではなかったと、今さらホッとする。
でも由美先輩が私に伝えたかったのは、そういうことではない。
「モト先輩が奏太を深夜のツーリングに誘ったのは、奏太が私と別れたからってことですか」
悩んでいた私との関係に終止符を打った奏太への労いだろうか。
彼らがそうやって互いを励まし合っていたことを、私もよく知っている。
だから間接的に、私が殺した……なんて。
そんな無茶苦茶な。
「半分はそれで正解」
「半分?」
まだ何かあるの?
胸がざわざわ落ち着かない。
由美先輩は険しくなった私の顔を見て、いったん深く息を吐いた。
「あんたは自分が振られたつもりでいるんだろうけど、奏太だって、本当は別れたくなかったの」
「振られたつもりって……紛れもなく、私はキッパリ振られましたよ」
短い言葉で、あっさりと。
由美先輩はそれがなんだとばかりに表情を崩さない。
少し前の記憶がよみがえる。
奏太は私と別れたことを『めちゃくちゃ後悔した』と言っていた。
『だけどその選択が間違っているとは思いたくなかった』とも言っていた。
この表現が、実は妙に胸に引っ掛かっている。
後悔したのはその後の恋愛がうまくいかなかったから。
間違っていると思いたくなかったのは、私と別れたことで目標に専念でき、ちゃんと整備士になる夢を叶えられたから。
そういう意味だと思っていたけれど、違うの?
「奏太はね。自分の気持ちを犠牲にして、さらに自分が悪者になることで、あんたの未来を守ったの」
犠牲? 悪者? 私の未来?
由美先輩の話が、どんどん私の想像を越えた方向へ進んでいる。
「わけわかんない」
知りたいけれど知ってはいけないことを知らされるような、奇妙な恐怖を感じる。
彼女は少し苛立った表情で告げた。
「大学のための推薦、あんた本当はもらえなかったのよ」
脈絡のない新たなキーワードに、頭がパニックになる。
「え? 大学?」
それがどうして犠牲や悪者に繋がるの?
おそらく全てを知っている由美先輩は、私が混乱しているのを楽しむように口許を緩ませる。
それからの彼女の話は、私のこれまでの10年を大きく後悔させるほど、ショッキングなものだった。