くるまのなかで
白のシルビアは、建物を出てすぐの駐車場に停まっていた。
通りに面してはいるが、深夜でほとんど車通りのない静かな立地。
低いエンジン音がよく聞こえる。
私はわざとヒールの音を鳴らして車に近づき、私に気付いた奏太に笑顔で手を振る。
にこりと微笑んだ彼は私服姿で、昼間に見た緑色のつなぎとは服装が変わっていた。
ボーダーのVネックカットソーと濃い色のジーパン。
よくあるラフなコーディネートたが、新たな彼の姿に、私はまたどきりとする。
助手席のドアを開け、着席。
ドアを閉めれば、あっという間に二人きりの空間の出来上がり。
ステレオから色っぽいダウナー系のメロディーが流れていて、しっとりした雰囲気に意図せず心が疼き始める。
「お疲れ」
優しい声でそう言った奏太。
高校時代は生徒会などが終わった後、いつもそう言って労ってくれた。
懐かしくて愛しい。
捲られた袖口から、筋張った腕が覗いている。
あの頃より太くなった腕。
もう一度左手の薬指を確認して、ホッと安心する。
「ごめん、待たせちゃったね」
「俺こそ、急かすみたいになってごめん。仕事が終わるまでゆっくり待たせてもらうつもりだったんだけど、まさか梨乃に電話までいくとは思わなくて」
「ううん、ちょうど仕事終わったところだったから。うちの会社、ほんとにセキュリティ厳しくて、色々面倒なんだ。携帯もセンターの外でないと使えないし」
だから本当は、連絡した後に私の方がのんびり待つつもりでいたのだ。
気が利かない女だって思われたかなぁ……。
奏太は全く気にしていない様子で微笑む。
「ちゃんとした会社だって証拠じゃん」
「アウトソーシング系の会社では普通だよ」