くるまのなかで
事が起きたのは、午前11時過ぎの田舎道。
私は通勤のために車を運転していた。
愛車は半年前に中古で買ったシルバーの軽自動車だが、こまめに洗車したり室内清掃に出したりして、大事に使っているつもりだった。
その愛車が走行中、突然グラグラと横に揺れ始めたのだ。
もちろんハンドルはしっかり握っているし、メチャクチャに左右に振ったりもしていない。
大きな地震が起きているような感覚で、車内には大型恐竜の雄叫びに似た謎の音が響いている。
体験したことのない異常事態に、私は力一杯ブレーキを踏む以外できることがなかった。
ハンドルが利かないのに道は緩い右カーブ。
背後にはさっきから私を煽っているガラの悪い大型トラック。
しかもこの田舎道こと県道65号線は片側一車線である。
前にはコンクリートの壁、後ろには大型トラックが迫る、絶体絶命の大ピンチ!
3ヶ月前に亡くなった母と、予定よりずっと早い再会を果たすことになりそうだ。
短い人生だった。
結婚や出産は仕方ないとして、もう一度くらい、まともな恋愛をしたかった。
した“かった”?
ううん、“したい”のだ。
「まだ死にたくない! 助けて!」
強く願った私に、奇跡が起きた。
愛車は歩道に乗り上げたが激突を免れ、後続のトラックは、クラクションを鳴らしながらたまたま車のいなかった反対側車線を利用して追い越しに成功。
偶然に偶然が良い方に重なり、私は無傷でかつ誰も傷つけることなく車を止められた。
人も車も少ない田舎道と神様に、心から感謝した。