くるまのなかで

九死に一生を得た私は、ハザードを焚いて愛車を降り、おそるおそる状態を確認。

ハンドルが利かなくなったことから、タイヤに異常が起きたことは想像できる。

行き交う車に注意しながら愛車を見て、ギョッとした。

左の前輪は真っ直ぐ向いているのに、右の前輪はあさっての方向を向いているのだ。

通常、フェンダーとタイヤの間には隙間があるが、タイヤがフェンダーに軽くめり込んでおり、摩擦が起きたのか焦げたようなにおいがする。

さっき車を降りた時にドアを開け辛いと感じたが、タイヤによってフェンダーが押し上げられ、歪んでいるせいらしい。

大型恐竜の鳴き声のような音は、おそらくタイヤとフェンダーが擦れて発生したものだ。

半年前に買った愛車がこれ以上走行できないのは明らかである。

「どうしよう……」

とりあえず会社に遅れると連絡して、それから保険会社?

その前に三角表示板を出した方がいいのだろうか。

頭の中はゴチャゴチャだし、怖くて膝はガクガクしているし、なかなか冷静になれない。

その時、ふと反対側車線30メートル先にある看板が目に入った。

『宇津木自動車(うつぎじどうしゃ)』

その横に、『車検・整備・修理』と書かれている。

「か、神様……!」

今日のあなたは、とても優しいのですね。

私は一目散に駆け出した。


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