くるまのなかで
真っ暗だった宇津木自動車の工場に、明かりが灯った。
昨日振りに会う愛車は寂しそうに蛍光灯の光を反射している。
つなぎ姿ではない奏太が工場に立っている。
なんだかふたりで悪いことをしているような、甘酸っぱい気分だ。
今日の私服(パーカー&チノパン)もいいけれど、昨日見たつなぎ姿の奏太も「働くオトコ」って感じでカッコよかったな。
「おいで」
呼ばれた声に従い、愛車の方へ。
「ここ、見て」
奏太が後輪のタイヤを指差した。
私は自分の影が被らない位置から、指されたタイヤを覗く。
「タイヤの溝が、ほら、だいぶ減ってるの、わかる?」
「わかんない。だって、元々どれくらいあるものかなんて、よくわからないから」
「ああ、じゃあ、ちょっと待って」
奏太は工場の奥の方へ行ってガラガラと物置の扉を開け、黒い何かを担いで戻ってきた。
タイヤだ。
近づくごとにゴムのにおいが強くなる。
それを私の車の後輪と並べ置いて、もう一度指を指す。
「これが新品のタイヤ。この差、一目瞭然だろ?」
「あ、ほんとだ」
奏太が持ってきてくれたのは、どうやら車に付いているのと同じサイズのタイヤのようだが、溝の深さは新品のものの方が格段に深かった。
「スリップサインも出てる。これから梅雨になるし、危険だよ。4本ともこっちのタイヤに交換したいんだけど」
「うん、お願いします」
「あと、エンジンオイルなんだけど、いくつか種類があって——……」