くるまのなかで
翌日、出勤してすぐ。
「何ニヤニヤしてんだ、気持ち悪いな」
心ないこの一言に、私の顔の筋肉が一瞬で凝り固まった。
お察しの通り、言葉の主は枕木チーフである。
今日も私を目の敵にして、せっかくの美しい顔を歪めている。
「ニヤニヤしてましたか? 私」
自覚がなかった。
無意識に頬の筋肉が上がっていたらしい。
「してたしてた。私、恋する乙女でーす♡みたいな顔だったぞ」
ギクッとして、また顔の筋肉が強張る。
確かに私は今『恋する乙女』状態だが、それをこの男に悟られてしまうとは浅はかだった。
「その女子真似の方がキモいです」
「なんだよ、図星って顔したくせに」
「してませんよ。ちょっといいことがあっただけです。いちいち詮索しないでくださいよ。私のことが好きなんですか?」
「はぁ? お前自意識過剰にも程があるだろ」
「チーフほどじゃありませんよ。つーかお前って呼ばないでくれます? 何様ですか」
「何様って、チーフ様だよ。知ってんだろ」
「チーフって部下をお前呼ばわりして良いほど偉いんですか。知らなかったなぁ」