くるまのなかで

周りからクスクス笑い声が聞こえて、私とチーフは口をつぐんだ。

「二人とも、ほんとに仲良しだね」

奈津さんも楽しそうに笑っている。

仲良しなんかじゃない。

私はこの男が大嫌いなのだ。

顔がよくて、スタイルもよくて、どうやら頭もいいらしいから、これまで散々女にチヤホヤされてきたのだろう。

だから女に何を言っても許されると思っているに違いない。

私はそんな男に媚びたり気を許したりなど、絶対にしない。

もちろん仕事で頼ることは多々あるだろうが、だからって懐いたりするもんか。

「さて、俺らも仕事するか」

「そうですね」

チーフと遊んでいられるほどヒマではない。

電話は鳴るし、その中にはSVである私たちの対応が必要なコールもあるし、STVへのフィードバックが必要な案件もある。

来月のシフト作成も終わってないし、経費の計算もそろそろ始めなければならないし、昨日から始まった新人研修だってある。

「あ、そういえば。今日の研修、一名欠席が出たぞ」

「えっ……」

研修に欠席者が出ると、その欠席者のためだけに別日程で振り替え研修を組む必要がある。

自分の仕事をする時間を削って行わなければならないので、SVとしては正直なところ、辛い。

「振り替えの希望日程は聞いといた」

「ありがとうございます。連絡して早めに設定します」

「よろしく」

「はい……」

でも、ちゃんと頑張ろう。

リーダーとは、気配りや目配りを絶やさず、みんなの状態や気持ちを汲み取って、物事をスムーズに遂行できるよう配慮し行動する『縁の下の力持ち』なのだから。

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