くるまのなかで
この日の夜。
奏太は22時頃、いつものように白いシルビアに乗って迎えに来てくれた。
私が手を振って、奏太が微笑んで、低い位置にあるシートへ落ちるような感覚で乗り込む。
初めは難しかったシルビアの乗り降りにも、もう慣れたものだ。
「お疲れさま」
奏太のこの一言で、一日の仕事の疲れが吹っ飛んでいく。
「ありがとう。奏太も、お疲れさま」
残念だけど、こんな毎日は今日で終わりだ。
「ありがと。じゃ、行きますか」
愛車の待つ、宇津木自動車へ。
「うん」
シルビアのエンジンが唸り声を上げてゆっくり走り出し、田辺さんの敬礼を肘だけ眺めて門を出た。
道に出て、夜になると点滅式になる信号の交差点を曲がり、県道65号線を真っ直ぐ進む。
今日は奏太の口数が少ない。
間が持たなくなってきた頃、ふと思い出す。
「そういえば、うちの会社に清香先輩が入ってきたの」
この話はまだ、奏太にしていなかった。
「清香って、俺と同じクラスだった野上清香? あー、えっと、結婚して苗字変わってるんだっけ」
「そうそう、今は及川さんだって」
話題が見つかってホッとする。
偶然だけれど、うちの会社へ来てくれた清香先輩に感謝。