くるまのなかで
神様。
私、無闇に告白して失敗なんてしたくないんです。
奏太が私を好きになるよう魔法をかけてくださいとは言いません。
そこはこれから自分自身で努力します。
だから……。
だから何か、“これから”に繋がるきっかけが欲しいです。
「梨乃」
名前を呼ばれて、ピクッと体が反応した。
奏太は私の手を握ったままハンドルから頭を上げた。
「なに?」
「車、直ったけど……また連絡していい?」
これは、何の奇跡だろう。
神様はいくつ願いを叶えてくださるんだろう。
嬉しさにツンと目頭が痛み、涙腺が涙を出そうとする。
私はそれを必死に食い止めながら首を縦に振った。
「もちろん。私も、連絡する」
「うん。近いうちにゆっくり話そう。飯でも食いながら」
「そうだね。お酒でも飲みながら」
「そうだな。車じゃない時は」
この約束だけで、私はどんな辛いことにも耐えられる気がする。
明日もきっと顔が緩んでしまうだろう。
もう枕木チーフにからかわれたって構うもんか。
その時は幸せなんだと言ってやる。
奏太の手が離れ、右手に籠った熱が車の中の空気に奪われていく。
シルビアがまたゆっくり走り出した。
私は助手席の窓の外を眺めながら少し咳き込むふりをして、さっき奏太が握ってくれた右手に軽くキスをした。