くるまのなかで

夢を叶えるということは、とても素晴らしいことだと思っていた。

私がまだ夢を追っていた頃は、夢さえ叶えば夢のような毎日が待っていると想像していた。

好きなことを仕事にするのだから、自分はキラキラ輝いて、多少忙しくてもそれが輝きのエッセンスになり、さぞかし充実した日々を過ごせるのだろうと。

だけどそんなの、私の幼稚な妄想だった。

夢を叶えたということは、すなわち夢を捨てたことに等しい。

私はSVになるという夢を叶えた。

しかしそれと同時に、その夢は終わってしまったのだ。

幼稚で都合と心地のいい妄想は全て数字ばかりの現実にすり替わり、キラキラ輝く予定だった未来はどんどん疲労で淀んでいく。

充実どころか仕事に追われるだけの日々を送り、出勤日は働いて寝に帰るだけ。

休日は泥のように眠った後、洗濯や買い物など生活を維持するための活動をするだけで終わることが多い。

別にこの会社に不満があるわけではない。

ただ、想像していたのと違って、戸惑っているのだ。

高校を卒業して以来、私は戸惑ってばかりいる。

人生のピークを過ぎてしまった気がして仕方がない私は、もうこの仕事で輝く自分を想像できず、向上心が持てない。

キャリアアップの方法より、少しでも楽になる方法ばかり探してしまう。

奏太はどうなのだろう。

整備士になるという夢を叶えて、どんな気持ちで仕事をしてるのだろう。

話、聞きたいな。

また会いたいな。

今日の通勤途中に宇津木自動車の前を通ったときは、車だけで姿を見ることはできなかった。

「小林、あと10分だぞ。間に合うか?」

「間に合わせます」

頑張ろう、私。

優等生だった絶頂期の私を知っている奏太に、カッコ悪い私を見られて幻滅されたくない。

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