くるまのなかで
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彼、徳井奏太は、高校のひとつ先輩にあたる。
私たちが通っていた東峰(とうほう)学園高等部は、いわゆる『バカ高』として名高く、地域の皆様からの評判がすこぶるよろしくない学校だ。
当然、不良とかヤンキーとか呼ばれる人種の生徒がたくさんいて、他校に比べるとよりワイルドでスリルに満ちた学園生活を送ることができる。
そんな我が学園の偏差値を一定レベルにキープするために設けられている『特進クラス』に所属していた私は、そういったエキサイティングな生徒たちからは引き離され、優良な進学校と同等に勉強漬けの毎日を送ることになっていた。
どうやら私は“シャープな顔立ち”をしているらしい。
そこに『不良たちとも張り合えそうだ』という根拠に乏しいポテンシャルを見出した担任の野中(のなか)先生から無理矢理学級委員を任され、1年の頃から理不尽に忙しい日々を過ごす羽目になった。
かたや『徳井奏太』といえば2年の不良グループのリーダー格として有名で、私もはじめは怖い人なのだと思っていた。
彼自身は黒髪だったが、いつも茶髪・金髪・坊主の厳つい男たちを5〜6人引き連れていて、ケンカしただの煙草を吸っただのと良くない話を頻繁に耳にする。
なぜか女子には人気だったが、特進クラスからすれば、学園の平和を乱す悪しき存在という認識だ。
嫌だなぁ、関わりたくないなぁと、心底思っていた。