くるまのなかで
このメッセージが、すぐに既読になる。
私はやりとりを中断させたくなくて、発車せずに彼からの返信を待った。
『飯はいつも帰ってから食べてるんだっけ?』
そういえば、送ってもらっていた時にそんな話もした気がする。
こんな些細なこと、覚えててくれたんだ。
『うん。でも今日はもう作り置きのおかずがないから、コンビニだよ』
送信。
これもすぐに既読になった。
しばらく待つが、返信は来ない。
もしかしたら眠ってしまったのかな。
昼出勤の私とはちがって、彼は朝から仕事をしている。
そろそろ眠らないと明日に響くだろう。
電源ボタンを押して画面をオフした私は、シートベルトを締めてリアブレーキを解除した。
次の瞬間、コンソールに乗せていた携帯が再びブブ、と震えた。
私は急いでリアブレーキを踏み直し、携帯を手に取る。
『じゃあ、俺とファミレスはどうですか?』
息が、止まった。
代わりに心臓が無駄に動きだす。
『それは嬉しいけど、こんな時間に大丈夫なの? 明日辛くない?』
すぐに既読になったと思ったら、次の瞬間、パッと画面が黒くなった。
長いテンポで機械が震え始め、少し遅れて画面に文字が表示される。
『着信 徳井奏太』
携帯と一緒に手まで震えてきた。
私は焦りながら通話ボタンをドラッグ。
「もしもし!」
という声まで震えてしまった。
変な声だと思われたらどうしよう。
『俺だけど』
ああ、高音質バンザイ。
電波に乗って届いたこの声に、一瞬で胸が熱くなる。
付き合っていた頃、奏太から電話をくれた時は大体このフレーズだった。