くるまのなかで
奏太は確かに不良だったけれど、目立つのも争いごとも好きではなかった。
悪いことに巻き込まれることはあっても、無闇に人を傷つけたり平気で誰かに迷惑をかけるなんて絶対にしなかった。
納得できないルールや理不尽な大人に反抗していたけれど、思いやりの心がある温かい人間であることは人望の厚さが物語っていた。
29歳になった今、彼は立派に夢を叶え、しっかり真面目に働き、すっかりカッコ良くなって。
こんなの、ただでさえ10年も未練を感じていたのに、好きにならない方がおかしい。
「——そういうわけで、日々勉強してる。ただでさえハイブリッドとか電気自動車とか原動機にも種類が増えて、知識がなきゃ扱えないしさ」
仕事のことを話している奏太もいい。
高校時代なんかよりずっとキラキラしている。
前に宇津木自動車で修理内容の説明を受けた時にも思ったけれど、こんなに真摯な彼を見られるなんて思ってもみなかった。
もし高校時代に彼を好きになっていなくたって、私は今の奏太に惹かれていたと思う。
「そうなんだ。資格を取るための勉強が全てじゃないんだね」
「うん。新しいものがどんどん出るし、構造も複雑になってるから。常に意識を高く持ってないと、すぐに食っていけなくなる」
「まさか奏太の口から“日々勉強”なんて言葉が出るとはね」
「はは、キモいだろ」
「ううん……」
カッコいいよと言葉を続けたかったのに、目頭と胸がツンと熱くなって、私はそれ以上口を開けなくなった。