くるまのなかで
泣きそうになったのは、ハッとさせられたからだ。
日々勉強もそうだけど、“意識を高く持っていないと”って部分はすごく響いた。
“響いた”というより、“刺さった”に近いかもしれない。
早くも人生のピークが過ぎたとか、周囲より能力が劣っているとか、私はそういうことばかり考えてスキルアップから逃げている。
己の意識の低さを指摘された気がして、ギクッとした。
「梨乃?」
何か言いそうで口ごもった私に、奏太が首を傾げる。
「あ……ごめん。今の自分を戒められた気がして、言葉を失ってた」
固まって重くなった頬の肉を何とか上げ、微笑んで見せる。
作り笑いに気付いた奏太はばつの悪そうな顔をした。
「うわ。俺、何か偉そうなこと言ってた?」
自制するように両手で軽く自分の頬を叩く。
私は慌てて首と手を横に振った。
「ううん、そうじゃなくて。私、仕事で意識を高く持ったことなんてなかったから」
「スーパーバイザー?」
「うん」
せっかく憧れていた仕事に就くことができたのに、思い描いていた理想と現実のギャップに打ちひしがれ、戸惑ったまま。
今ある仕事をこなしていくことに必死で将来がどうとか考える暇なんてなく、この仕事が好きかどうかもわからない。
もういっそのこと、誰かと結婚でもして解放されたいとすら思っていた。
だけど恋愛こそうまくいかないからどうしようもない。