くるまのなかで
「それは……意外だな」
奏太がぽつりと漏らし、食事の前にドリンクバーで注いできたコーラを啜った。
「意外?」
「俺、意識を高く持つってことを梨乃から学んだから」
「え? うそ、私?」
思いがけない言葉に、腹の底から低い声が出た。
素で驚く私をクスッと笑った奏太。
だらしなく口を開けてしまっていることに気付き、私は慌てて表情を整える。
「嘘じゃないって。梨乃、ただでさえ多忙な特進クラスなのに、1年の頃から学級委員とか生徒会とか、ずっと忙しかったじゃん?」
「まあ、うん」
本当はもっと奏太と過ごしたかったけれど、勉強と仕事のために彼を長く待たせてしまったり、予定を延期したりキャンセルせざるを得なかったこともある。
私はそれを申し訳なく思っていた。
奏太は続ける。
「俺らが体育祭の準備してる頃には既に文化祭のことを考えてたり、文化祭の最中には次の生徒会選挙の演説作ってたりしてたよな。出来る人間は目先のことじゃなく、ずっと先のことまで考えて動いてんだなって、すげーなーって、思ってたんだよ」
問題児ばかりの東峰学園は、イベントひとつ成功させるのに一苦労。
学級委員あるいは生徒会長として、生徒の関心をどう喚起するか。
事前にたくさん作戦を考えて動いておかないと、目も当てられないようなグダグダな進行になってしまうのだ。