くるまのなかで
そうなると生徒全員がシラけるし、学園の特性上、イベント自体が荒れてしまう。
そうならないよう、私は必死に考え行動した。
それでいつもバタバタして、約束に遅れたりドタキャンしたり、奏太には迷惑をかけることもしばしば。
笑って許してくれていたけど、申し訳ないと思っていた。
でも、そんなふうに思ってくれていたんだ……。
10年以上経った今改めて告げられると、照れてしまう。
「自分では必死なだけだったけど、確かにあの頃の私は意識高かったかも」
だからなおさら今の自分が情けない。
私は成長どころか退化しているのでは。
「今は違う?」
「うん。奏太をガッカリさせるようで恥ずかしいけど、私、仕事ができる女とは言えなくて。やらなきゃいけないことがいつも両手にいっぱいで、余裕がないの。今日もこんな時間まで残業だったのは、私の作業効率が悪いから」
普段はおちゃらけている枕木チーフに真顔で釘を刺されるのは、あのセンターでは私だけだ。
奈津さんや他の課のSVの人が私のように指導されている様子は見たことがない。
「梨乃でもそうなる世界があるんだな」
「私を買いかぶり過ぎだよ。でも、奏太のおかげであの時の感覚を思い出した。ありがとう」
大学時代に挫折を味わって以来、“どうせ私無能だし”と考える癖がついてしまい、前向きな姿勢を忘れていた。
今の私に必要なのは、高校時代のあの感覚だ。