くるまのなかで

社会人になって勤務地が県外になって以来、唯一の家族である母とは離れて暮らすようになった。

こっちに戻ってきたのも母が入院してからだ。

就職して全国各地に散った友達にはたまにしか会えないから、弱音なんて吐きたくない。

恋人ができても長続きしなかったし、弱さを見せられるほど心を許せなかった。

私は大人になってから、ずっと一人で戦っている。

だから誰かに励まされたり応援されたりすることも、ほとんどなかった。

ひとりに慣れ過ぎてわからなかったけど、孤独だったんだな、私。

寂しく乾いた私の心に、奏太の言葉が沁みて潤っていく。

心が解れていく。

今日、奏太に会えてよかった。

たくさん話ができてよかった。

高校時代、私があんなに自然と頑張れたのは、奏太が常日頃から私に潤いを与えてくれたからかもしれない。

また奏太とそんな関係になれたら、自信の持てなかったSVの仕事もうまくいくような気がする。

だって今、こんなにもポジティブになっている。

まったく、恋の力というのはスゴい。

ううん、きっと奏太自身がスゴいんだ。

「こんな俺でもお役に立てましたか」

「立ちましたよ、すごく」

「じゃあ、また誘ってもいいですか」

「是非誘っていただけますか」

幸せな気持ちがじゃんじゃん湧いてくる。

そのうちまた誘ってくれるという期待だけで、私は喜んで仕事に勤しめる。

単純だって笑われるかもしれないけど、いつかまた奏太に“すげーなー”と思ってもらえるよう、頑張ってみよう。



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