くるまのなかで
午前2時前。
もういい時間だと店を出て、とぼとぼと駐車場へ向かう。
立ち位置はもちろん私が左で奏太が右だ。
「奏太。今日は遅いのにありがとね」
「だから、誘ったのは俺だって」
「そうだけど。私、今日一人であのまま家に帰ってたら、ずっと気持ちが沈んだままだったと思うから」
本当に、感謝してる。
ふと奏太が足を止めて、私は3歩進んだところでそれに気付き、振り返る。
駐車場のオレンジっぽい外灯に照らされた奏太は、ジーンズのポケットに両手の親指を引っかけたポーズで立ち止まっている。
高校時代、気崩した制服でよくその立ち方をしていた。
懐かしい情景が頭を掠める。
「あのさ、梨乃」
「なに?」
車通りが少なく、あたりは静か。
私たちはこの場で実質二人きり。
奏太が真面目な顔をしているから、大事なことを言われるような気がしてグッと身構える。
「10年前、俺が、別れたいって言った後」
今まで私たちがあえて触れなかった別れについての話題に、ビクッと肩が震えた。
心拍が強くなって息苦しい。
あの時のショックは、今でも容易に思い出せる。
「あの後、俺、死ぬほど後悔したんだ」