くるまのなかで

午前2時前。

もういい時間だと店を出て、とぼとぼと駐車場へ向かう。

立ち位置はもちろん私が左で奏太が右だ。

「奏太。今日は遅いのにありがとね」

「だから、誘ったのは俺だって」

「そうだけど。私、今日一人であのまま家に帰ってたら、ずっと気持ちが沈んだままだったと思うから」

本当に、感謝してる。

ふと奏太が足を止めて、私は3歩進んだところでそれに気付き、振り返る。

駐車場のオレンジっぽい外灯に照らされた奏太は、ジーンズのポケットに両手の親指を引っかけたポーズで立ち止まっている。

高校時代、気崩した制服でよくその立ち方をしていた。

懐かしい情景が頭を掠める。

「あのさ、梨乃」

「なに?」

車通りが少なく、あたりは静か。

私たちはこの場で実質二人きり。

奏太が真面目な顔をしているから、大事なことを言われるような気がしてグッと身構える。

「10年前、俺が、別れたいって言った後」

今まで私たちがあえて触れなかった別れについての話題に、ビクッと肩が震えた。

心拍が強くなって息苦しい。

あの時のショックは、今でも容易に思い出せる。

「あの後、俺、死ぬほど後悔したんだ」

< 70 / 245 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop