くるまのなかで

なに、それ。

その言葉を、私はどう受け取ればいいの。

固まって何も言い返せない私。

奏太が申し訳なさそうに頭を掻く。

「ごめん、今さら。でも俺から切り出しといて引っ込みもつかなかったし、自分の選択が間違ってるとは思いたくなかった」

選択って、何よ。

私と誰か、あるいは何かを天秤にかけたってこと?

私じゃない方を選んで、後悔して、意地を張っていたと。

「奏太にどんな葛藤があったかなんて、私には関係ない」

大好きな彼氏に別れを告げられた。

シンプルに、大失恋。

私にとってはそれだけだ。

「そうだよな。ごめん。でも俺、後悔しながら決めたんだ」

「何を?」

「次に梨乃に会うまでに、梨乃に恥じない男になろうって」

心が落ち着かない。

奏太のここまでの成長は私のためだって、自惚れていいのだろうか。

私はすっかり今の彼に魅了されている。

10年経って、彼の目標は達成された。

それで、次に何を望んでいるの?

「そんな言い方、ズルい」

私が今の奏太を認めていることを、もう知っているくせに。

「じゃあ、ハッキリ言うよ」


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