くるまのなかで
6月に突入した。
今朝のワイドショーで『もうすぐ梅雨入り!』と様々なレイングッズを紹介していたが、本日はうっとりするほどの快晴である。
まあ、車通勤かつセンターで完全内勤の私には、雨だろうが晴れだろうがあまり影響はないのだが。
「最新版のシフト表ができました。データはシステムにアップ済みです。プリントアウトしたのがこちらです。それから、昨日入電のあった案件でクライアントに回していた分があるのですが、研修中にコンタクトがあったらこちらの受付票を参考にしてください」
そう言ってファイルをふたつ枕木チーフに差し出すと、彼は怪訝そうに眉を寄せた。
「お前、どうした」
ゆっくりとした動作でファイルを受け取り、反対の手の指でポリポリ頭を掻く。
「何がですか。ていうかお前って呼ばないでいただけますか」
「珍しく仕事してんじゃん」
珍しくって、失礼な。
とは思ったが、私はこれまでになく自主的に動いているし、催促される前に準備を完了できたのは確かに珍しいことだった。
先日奏太に励ましてもらって、そういうところから改めようと思ったのだ。
「毎日ちゃんと仕事してますよ。でも余裕を持って運営したいので、ここ数日はサイクルを早めるために残ってやってたんです」
「無駄な残業はしてないって言いたいのか」
まったくその通りである。
あの日の嫌味を、私はまだ根に持っているのだ。
「私の心の声が聞こえるようになったんですね」
「小林は色々顔に出るからな」
バカにするようにフッと鼻を鳴らしたチーフは、満足そうに資料を読み始めた。