くるまのなかで
「冬にうちのセンターに来てから、ずっと辛そうだったけど、最近は超ハッピーな顔してる」
顔ってそっち?
奈津さんが顔と表現したのは肌ではなく、表情だったらしい。
半年前、末期症状だった母の看護のためにここに来て、会社と病院を往復する毎日を過ごした。
覚えなければならない仕事がたくさんあるのに、母のことでも考えることがたくさんあり、あの頃は体力的にも精神的にも辛かった。
やがて母が亡くなった時はさすがに落ち込んだし、それ以降もなかなか仕事に慣れることができず、苦しかった。
きっと疲れた顔をしていたにちがいない。
そんな私が最近急にニヤニヤし始めたのだから、不気味に思われても仕方がない。
「すみません、だらしない顔をしてましたね」
奏太に言われたことが嬉しくて、つい表情が緩んでしまう。
職務中に私情が漏れ出るなんて、人をまとめるSVとしてはまだまだ半人前の証拠である気がして恥ずかしい。
そういうところも、高い意識を持って直していかないと。
「なんで謝るの? 梨乃ちゃんってデスクワークしてる時は険しい顔をしてることが多いから、ニコニコ仕事してると私たちまで嬉しくなるんだよ」
私ってば、いつもそんなに険しい顔してるんだ。
さぞかし話しかけづらかったことだろう。