くるまのなかで
私はそういう気持ちを込めて、男たちを睨みつけた。
「マジウザい。あんたら、徳井って人に相手にされてないだけじゃん」
強気な態度でそう言うと、俄然彼らの顔つきが変わった。
“相手にされてない”という部分が図星で、癪に障ったのだろう。
それまで下手に出ていた男たちは急に手の平を返した。
「おい、お前。東峰のくせに調子乗んなよカスが」
空気が変わったことを感じ取った私は周りを見渡した。
人などほとんど歩いていない裏道に、助けを求められそうな人などいるわけがない。
私なんかには無関心な自動車がたまに車道を通過するだけである。
「つーかもうよくね?」
「連れてこうぜ」
「は、はぁっ?」
「黙れよ。お前はただの人質なんだよ」
そう言われて腕を掴まれ、無理矢理歩かされる。
「放してよ!」
と大きな声を出してみるが、人気のない道では効果がない。
ていうか、人質って……全く面識もないのに。
徳井奏太が来なかったら私はどうなるんだろう。
親に身代金とか要求するのだろうか。
無理だよ、うちは母子家庭だしお金なんてない。
わざわざ不良だらけの私立高校を選んで入学したのは、家から一番近い高校だったし、特待生制度で学費が無料になって、公立の進学校に通うより安く済むからだ。