くるまのなかで

彼氏、かぁ……。

モト先輩の事故現場に行った夜、奏太と抱きしめ合ったけれど、それ以上のことは何もなかった。

あの後はどこにも寄り道せず、家に送ってもらって別れた。

急に抱きしめられてドキドキしたけど、モト先輩の死を悼む気持ちと奏太への恋愛感情は対極の位置にあって、あの場では奏太とどうこうなろうとは思えなかったし、きっと奏太も同じだったはずだ。

うっかり着て帰ってしまったパーカーは、まだ私が持っている。

おしゃれ着用の洗剤で洗濯し、紙袋に入れた状態で、いつでも返せるよう車に積んである。

『もうだいぶ暖かいし、次に会った時でいいよ』

LINEで尋ねるとこう返事がきたけれど、もう数日会えていない。

次はいつ会えるかな。

再会して以来、奏太とは会う度に距離が縮まっている気がする。

前回はあれだけ抱き合ったのだから、次はもしかして……なんて、期待してしまう自分はいやしいだろうか。

日曜日。

もし本当に休みが取れそうなら、奏太を誘ってみようかな……。

普段休みが合うことなんてないから、ちょうどいい機会だし。

本当に休めるなら、だけど。

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