EGOISTIC狂愛デジャ・ビュ

「思い、出した……」

ポツリと漏れた言葉に、ルカの歩みが止まる。

過去の記憶から現実に戻り、小鳥は泣きながら悲しげに微笑んだ。


「ルカさん…私……お父さんに、嫌われてたんですね」


「帰りが遅い。何やってたんだこのガキ!」と罵られてお腹を蹴られた。

それを目撃したルカが割って入って――ああなった。


「…ルカさんが、助けてくれたんですね。私の記憶まで消して……。お父さんとのことがよく思い出せない理由は……そういうことだったんですね…?」


あの事件の後、ルカはもう一度小鳥に会いに行った。

そして一輪の白薔薇を差し出し、泣きそうな表情で何度も繰り返した。


――ゴメンネ…


記憶は消え去り、父親の死は謎のまま終わった。


「思い、出したんだ…」

「はい…」


記憶が紐解かれた今、わかる。


(お父さんとの思い出に、いいものなんてなかった……)


モデルの仕事を頑張っていた母親とは対照的に、父親は勤めていた会社からリストラされ堕落した人間になっていた。

新しい職を探しもせず、酒を飲んでは小鳥に八つ当たりが日常茶飯事。


辟易していた。

だからあの日も家にいたくなくて外に出たのだ。


「せっかく消してあげたのに…思い出しちゃ意味ないじゃん」

溜息をついてから白薔薇を握り締める。

「もう一回、消してあげる」


< 232 / 505 >

この作品をシェア

pagetop