EGOISTIC狂愛デジャ・ビュ

「素敵な曲ですね」

弾き終えた白魔に素直な感想を述べれば、彼は儚げに笑った。

「この曲……僕の母上が好きな曲だったんだ」

「お母さんが…」

「母上はヒステリックでね。よく泣き喚いていたけれど、この“愛の夢”を聴かせると落ち着いたんだ」

昔を懐かしむように目を細めるも、一瞬。

次の瞬間、白魔の指は不協和音を掴んでいた。


――ガーンッ!!


意味のある音とは言えない怒りの塊が、防音の部屋に鳴り響く。

「……母上の精神がおかしくなったのは、父上のせいだ」

憎しみに反応したのか、白魔の瞳孔が開いた。

「父上は地上で母上に一目惚れして地下世界に幽閉した。母上の意思を無視して部屋に閉じ込め、無理矢理純潔を奪って自分のものにしたんだ!」

せっかく「愛の夢」で和らいだ胸中に、また怒りが沸き上がってくる。

白魔は突然、狂ったように鍵盤を叩いた。

しかし、先程の不協和音とは違う。

ヘ短調の主和音が耳に飛び込んでくる。


(これは、曲…?)


ベートーベンのピアノソナタ第二十三番《熱情》。

第三楽章の後半、曲がどんどん激情的に加速していくプレストの部分から白魔は弾き始めた。


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