EGOISTIC狂愛デジャ・ビュ
「衣装?なぜそんなタイトルなんですか?」
「アリアの歌い出しが“衣装を着けろ、白粉(おしろい)を塗れ”から始まるからさ」
男性テノールの美しい声が響く。
曲の途中で歌い手の高い笑い声が入った。
「この曲は《道化師》というオペラの中で歌われるんだ。化粧をして道化の服を着る男が主役さ。道化師はこの曲で悲しみを…怒りと苦悩に混ぜて歌い上げる。道化師の運命を、裏切られ引き裂かれた自分の愛を笑えと」
白魔は持っていた楽譜を見せてくれた。
イタリア語で書かれた歌詞の傍に、白魔が書いたであろう手書きの日本語訳がある。
「大切な愛しい妻が、夫である自分を裏切って別の男と駆け落ちする約束をしてたんだ。これ程悲痛なアリアはそうないね」
――ああ!笑うんだ道化師よ、
お前の愛の終わりに!
笑え、お前の心に毒を注ぎ込む
その苦悩を!――
「小鳥は、どこにも行かないよね?僕を置いて……離れたりしないよね?」
近づいてきた白魔に、おもむろに肩を抱きしめられる。
「不安なんだ…。君にまで拒絶されてしまったらと…恐ろしくてたまらない」
今にも泣き出しそうな、弱々しい声。
(白魔さん…)
母親と重ねているのだろうか。
愛情を求めても拒絶されてしまった。
その痛みを繰り返したくはないと、白魔は小鳥にすがりつく。
(ルカくんと一緒になりたいけど……白魔さんを一人にするなんて…)
こうして弱い部分を見せられると彼のことを見捨てられなくなる。
「大丈夫、です…。白魔さん。私は……ここにいますから」
「小鳥…!ああ、僕のプリマドンナ!」
小鳥は知らない。
妻に裏切られた道化師が彼女を刺し殺した結末を。