精一杯の背伸びを
仁くんがリビングに戻ってきた。
髪からは水が滴り落ちている。
きっと私たちが心配になって慌てて戻ってきたのだ。
私が佳苗さんに何かするとでも思ったのだろうか?
皮肉な考えが頭を過ぎる。
「仁!小春さん。すごいのよ!さっと何でも作っちゃうの!」
「手際だけじゃない。小春の料理はうまいぞ」
仁くんは自慢気に言った。
「期待に応えられるかわからないけど、もうできるから座ってて」
私はにっこり仁くんに笑いかける。
目は合わせない。
きっと彼の目には色んなものが渦巻いてる。
戸惑い。
憐れみ。
諦め。
そして私の目には空虚さしかないのだろう。
余所余所しさを肌で感じる。
だけど、それで良い。
嘘で塗り固められた笑顔を二人で貼りつけて笑っていれば良いのだ。