精一杯の背伸びを
しばらくの沈黙の後、
「わかった。あのな、小春」
その先に言う言葉を仁くんは見つけていない。
何も仁くんは言えやしない。
だから、私は遮った。
「何も言う必要はないよ。じゃあね」
さっさと歩き出した。
踵の高い靴でふらつかずに、背筋を伸ばして。
たくさん練習した。
仁くんの隣を、こんな靴を履いて歩きたいと。
お似合いね。
そう言われたいと。
ずっと願ってきた。
そのために私は。
家の鍵を開け、まっすぐ部屋へ向かった。
わき目も振らず。
そして机の一番上の引き出しを開け、煙草を取り出す。