精一杯の背伸びを
「私だって、いきなり仁くんが現れて言葉も出なかった。今までの人生で1番の驚き」
私は紅茶をかじかんだ手で包み込み冷ました。彼は平気そうにカップに口をつけた。
「お仕事だったの?」
「そう。会社に泊まり込みで。まぁ、お陰で仕事は片付いたけどな」
自分の間の悪さを呪いたくなった。やはり、予め連絡を取って予定を確認すべきだったと今になって後悔する。
「寝てないんだよね?ごめんなさい。すぐに帰るから」
「仮眠はとった。それより、観光しに来たんだろ?案内してやる。すぐに用意するから待ってろ。」
彼は紅茶をもう一口啜り、立ち上がろうとした。
私は何にも説明していないことに気づき、彼の勘違いを訂正しようと慌てて口を開いた。
「違うの。東京の大学通うことになったの」
彼はしばらく何も言わずに、私をじっと見つめてから、
「…そんなこと、おばさん言ってなかった。なるほど、おばさんらしいサプライズだ。」
彼は昔を懐かしむように、笑った。