精一杯の背伸びを





 心を揺さぶられるのが恐ろしい。


 だから榊田君が怖い。


 あの何でも見透かすような黒い瞳が自分に向けられることを私は恐れている。


 すでに気づかれているだろうか?


 もう仁くんのことを考えたくないし、傷つきたくないのに。















 二月はアルバイトを多く入れていた。


 それを誰かに押し付けることはできない。


 ただ、それ以外は適当に理由を付けて断っている。


 体がなまっているから道場に通っていると。


 榊田君はこの嘘に何も言わない。


 私が道場に行っていないことを知っているだろうに。


 それが彼の優しさだ。


 そう思っていた。
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