精一杯の背伸びを
そんな風に過ごし、三月が始まって少し経った頃。
いつも通りに帰ろうとした私を榊田君が呼び止めた。
「おい。話がある」
「ごめん。用事があるの」
私は申し訳なさそうに榊田君を見る。
「用事?俺に道場は通用しないぞ」
わかってる。
誰かと一緒にいたくない。
特に榊田君とは。
「今日は違うの」
「言ってみろよ」
嘘だとわかっていて、そんなことを言う榊田君に私は眉を寄せた。
「エステ」
そう言って、さっさと歩き出した。
「そうか。何事も経験だよな。俺も行く」
榊田君は私の後ろにぴったり、くっついて歩き出す。
私は何も言わないで歩調を速める。