精一杯の背伸びを
「おい。電車には乗らないのか?」
家に向かって歩く私に、後ろから声をかける。
私はぴたっと、立ち止まった。
「榊田君。意地が悪いよ。榊田君と話したい気分じゃないの」
榊田君の目を見ることはできなかった。
鋭い視線が注がれているのはわかった。
「あっそ。俺はお前に話がある。お前の気分なんて知ったことか」
「それなら、私が榊田君に合わせる必要もない」
私はそれだけ言うと、また歩き出す。
「お前が話したい気分になるの待ってたら、いつになるんだ」
うるさい。
私に構わないで欲しい。
そう思ったら、どんどん歩調が速くなって、いつの間にか走っていた。