精一杯の背伸びを








「榊田君のこと買いかぶり過ぎてたみたい。榊田君。あなた、かなり身勝手よ?」




 私はひどく冷めた視線を送った。


 榊田君はそれに動じず、私に目を合わす。


 見たくない。


 黒い瞳が私を見透かすようで。


 すぐに自分から目をそらす。


 何でも見透かすような鋭い視線から逃げたい。


 今のままでいないと、私は仁くんを。




「お前ほどじゃない。行く。そう言えばすぐに帰してやる」




 息を止める。


 私が逃げ出したいと思っていることを榊田君はわかってる。


 とにかく今は榊田君の視線から逃れたくて、私は俯きながら、




「わかった。行く。これで良いでしょ?」




 ひどく情けない声が出た。


 もう早く帰りたい。


 ここにいたくない。


 すると、店員さんが、ステーキセットを持って来た。


 鉄板で肉が焼ける音と匂いが充満する。


 それと同時に私は席を立つ。


 コートも着ずに外に出た。


 榊田君は追いかけてこなかった。












 肌を刺すような寒さが今は心地良かった。




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