精一杯の背伸びを



 彼はほんのり高級感が漂うイタリアンレストランに連れて行ってくれた。メニューを見ても、聞いたこともない料理ばかりだったから、頼むのは彼に任せた。運ばれてきた料理は見た目も綺麗で、美味しかった。


 だけど料理よりも、この7年間を埋め合わせるように、会話に夢中になった。


 学校のこと。


 両親や友達の話。


 どこの誰が結婚した。


 色んなことを私は彼に話した。


 彼は饒舌ではないが、私が尋ねれば話をしてくる。


 そして時折、彼が私をからかい、私が怒る。


 そんな何もかもが、変わらなかった。


 7年の隔たりはどこにも存在しなかった。


 ずっと一緒にいたかのようだった。


 そのことに、私は安心感とそして…


 何故か焦燥感を覚えていた。















 仁くんは、やっぱり私を家に送り届けると、すぐに帰っていった。


 予想通りで残念ではあったが次に会う約束も取り付けたし、なによりずっと近くに彼がいる、その喜びが大きい。


 でも。


 心のもやもや。


 言い知れぬ不安。


 何か間違いを犯した感覚。


 何か見落としをした感覚。




< 14 / 233 >

この作品をシェア

pagetop