精一杯の背伸びを




 そんな自分を振り払うように、思いっきり滑った。


 何度も何度も。


 ただ、懐かしさをどこかで感じてしまって、抑えきれない。


 懐かしく、温かな思い出を鮮明に思い出してしまいそうで。


 振り払いたいのに、やっぱり振り払えなくて。









 オレンジ色の光が雲に覆われて見えない。


 そのことがせめてもの救いだ。


 オレンジ色の光は私を救ってくれる光だったのに。


 今は、その光は私を壊す光でしかない。







 昨日と同時刻に待ち合わせ、同じようにシャトルバスに乗り込む。


 いつも通り、淡々と笑いながらも。


 いつも以上の空虚さを感じた。


 くだらない感傷だ。


 だからだろうか。


 お風呂に向かう途中、足をぴたりと、止める。



「小春?」



「ごめん。少し散歩してくる」



「えっ?散歩って」



「庭を。先に行ってて」



 私は返事も聞かずに背を向けた。


 冷たい空気に触れたかった。



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