精一杯の背伸びを
「榊田君!」
小夜ちゃんが慌てたように言う。
その声に私は榊田君にぼんやり視線を移す。
なんだか、動くのが億劫だ。
「水野。歯食い縛れ」
そう榊田君が言った瞬間、彼は勢い良く手を振り上げた。
大きな音が辺りに響いた。
歯を食い縛る時間なんて用意されてもいなかった。
頬がじんじんして、燃えるように熱い。
口の中に血の味が広がる。
だけど手で押さえることもしない。
どうでもよかった。
「ちょっと!あんた!女になに手あげてんのよ!」
朔ちゃんが怒鳴り声をあげる。
「蹴り飛ばさないだけありがたいと思え。上原は少し黙ってろ」
朔ちゃんをちらりと一瞥して、すぐに私に視線を戻す。
その目に怒りが見て取れた。
ひどく怒っている。