精一杯の背伸びを











 朝、小夜ちゃんが水筒におかゆを入れて持ってきてくれていた。


 昼になり、さすがに丸一日何も食べていなかったから、おかゆに口をつける。


 微熱だから薬を飲んで、ひと寝入りすれば治るだろう。


 だるさはすでにない。


 夢を見たからか、心が動き出したからか。


 過去の出来事が頭を巡る。


 優しく温かな思い出ばかりだ。


 思い出しては、彼を憎んだ。


 私は、何をしてきたんだろ?


 たくさん、たくさん彼と過ごした。


 その中で、いろんなものを積み上げてきた。


 二人で手を繋いで歩いた。


 雪だるまを作った。


 だけど私が抱きついたら、雪だるまの頭が落ちて割れた。


 仁くんが風邪を引いた時は大声で子守唄を歌った。


 すぐに、うるさいって追い払われた。


 他の人から見れば、くだらないものかもしれない。


 だけど私には大事な思い出だ。


 かけがえのないもの。


 その積み上げてきたものが、全て壊れてしまった。


 七年間、私が一人で積み重ねてきたものと一緒に。


 仁くんにとってもかけがいのないものだと思っていた。


 だけど、もしかしたら彼にとってはくだらないものなのかもしれない。




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