精一杯の背伸びを




 心が動き出したからダメだ。


 苦しくて仕方がない。


 なげやりになることさえ、もうできない。


 とりあえず明日、謝ろう。


 榊田君とは顔を合わせたくない。


 彼に謝るつもりも、ましてやお礼を言うつもりなんてない。


 彼の身勝手さがそもそもの原因だ。


 露天風呂に入ると、雪が結構降っていた。


 明日、吹雪かないと良いけど。


 最後の日くらい、みんなにスキーを楽しんで欲しい。


 これで、みんなと会うのは最後にしようか。


 もう、東京にいる意味がない。


 仁くんの近くにいても意味がない。


 近くにいても辛いだけ。


 お父さんは辛くなったら帰って来い、と言ってくれた。


 実家に戻ったら喜ぶだろうな。


 お母さんだって、本音を言えば家を出て欲しくなかったはずだ。


 両親の気持ちを知っていながら、上京したのは彼とずっと一緒にいるため。


 もうそれは叶わない。


 そんなことを考えていたら、目が潤んできた。


 慌てて、大きく伸びをして深呼吸をし、嫌な考えを振り払った。




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