精一杯の背伸びを




 私にとって彼と会えないことは色がない世界で過ごしているような気分にさせた。


 その思いが日を追うごとに募っていった。


 そして、ようやく会えることになったのが6月の中旬。


梅雨真っ盛りのことだ。


 本当は夕方から会う約束だったが、彼が1日中空いていると知って、陶磁器展と絵画展に行きたい。と言ってみたら、二つ返事であっさり了承された。展覧会が好きなのは相変わらずらしい。


 それに、私自身も展覧会は好きだった。彼がいない頃も一人で足を運んでいた。田舎だったから、そう頻繁には行けなかったけど。


 展覧会を好きになった理由は当然のことながら、彼であり、展覧会に行く度にその作品について教えてくれて、それは私の興味をそそる話ばかりだったからだ。


 展覧会が好きとはいっても、私は彼と一緒にいられるなら展覧会でなくても構わない。一日彼と一緒にいられる、それだけで雨の降りしきる梅雨だって、私の心の晴れやかさを曇らす要素にはならない。私の世界は彼が中心なのだ。


 今日も彼は色んな話をしてくれた。彼は本当に何でも知っている。それは興味のある分野だけではない。


 どれだけの知識が彼の頭にあるのか。


 昔から頭も良く、運動神経も抜群だった。


 彼にできないことはない。小さい頃、私はそう本気で信じていたものだ。



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