精一杯の背伸びを
「その顔見ると、死人のままでいたかったのか?」
榊田君は私の顔を覗き込み、普段より少し低い声で尋ねた。
彼の視線を避けるように、足元に目線を落とす。
「死人でいれば辛くない」
仁くんを恨みたくなかった。
憎みたくなかった。
だから私は、仁くんに線を引いた。
心に線を引いた。
「そうか?辛くなかったか?それなら何で自殺しようとした?」
「だから、あれは」
私の言葉を榊田君が遮る。
「逃げた結果だろ」
榊田君が私のあごを掴む。
無理やり顔を上げさせられる。
揺るがない黒い瞳が私に注がれる。
私は思わず、目を背けた。
この全てを見透かすような、まっすぐな視線から逃げたかった。
「そうやって過ごしていくつもりか?諦めたように笑って、目を背けて、それで満足か?移ろうように、流されるように」
それは、私を責める口調だった。
容赦なく浴びせられる言葉は鋭く、私の心を疼かせた。
「……私に、どうしろって言うの!?もう、無理なのよ!どうしようもないのよ!私だって好きでこんなふうになったんじゃない!!」
つい大きな声をあげる。
数十メートル離れた座席にいた、おじさんが何事かと私たちに視線を向けた。
「もう、どうしようもないのよ」
さっきとは打って変わって弱弱しく、か細い声が出た。
「何があった?」
いつもと変らない落ち着いた口調なのに、どこか優しく聞こえた。
泣きたくなるほどに。
私は彼の優しさに甘えてばかりだ。