精一杯の背伸びを




 小洒落た居酒屋に入ると個室に通され、私は烏龍茶、彼は日本酒を注文した。


 彼の上着のポケットから煙草のケースが見えた。


 仁くんと別れた時は彼も未成年だったし、少し意外にも感じたけど、彼の父親と同じ銘柄で何となく気持ちが理解できた。



「仁くん、煙草吸うんだね」



「本当にたまにな」



「きっと様になるんだろうね、おじさんみたいに。みたいな」



 上目づかいで仁くんを見ると、彼は苦笑いして、いつかな、と言った。


 どうやら、今吸うつもりは毛頭ないらしい。












 それから澱みなく、流れるように会話が進んだ。


 しばらく会っていなかったから、話したいことは山ほどあった。


 だけど今日彼に会ったら、どうしても言っておきたいことがあった。


 このままではいつまでも切り出せないと思って、今思い出したかのような、何気ない口調で話題を変えた。



「そうだ。お母さんがお盆に仁くんも連れて帰ってきなさいって」



「ああ、今年は帰るつもりだ」



 これは以外だった。



「七年も帰って来なかったのに、今年はどうして?」



 そんな当たり前な質問をすると、彼は淡く微笑んだ。


 優しくて暖かくて、どこまでも私を真っ直ぐに淡く。


 本当に、本当に時折見せるこの微笑みに、私の神様だと本気で思ってしまう。


 確信してしまう。


 この人を愛していると。


 そして、彼が何にも答えないことも、知っている。


 私が、ぼーっとしていると仁くんはいつも見せるように笑ってみせた。



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