精一杯の背伸びを



「この間、仁くんの家に行ったら恋人が来てたの。その人と結婚するんだって」



 なるべく感情を入れずに話す。


 そうしないと感情に呑まれてしまうから。


 榊田君は言葉がでないようだ。



「馬鹿でしょ?恋人がいるかも確認してなかったなんて」



「そういう問題じゃない。水野に散々思わせぶりな態度とっておいて、恋人がいたってどういうことだよ?」



 苛立たしげに、責めるように榊田君は言った。



「わからない。だけどそれが事実」



 淡々と答える。


 どうして思わせぶりな態度をとったのだろう?


 私の気持ちを知っていながら。


 私だってわからない。



「お前、怒れよ。馬鹿にするなって怒鳴って、殴ってやれば良い。そんな最低なやつに遠慮する必要なんてないだろ」



 榊田君が吐き捨てるように言う。



「仁くんは最低じゃない!仁くんのこと悪く言うのは許さない!」



 私は勢い良く、榊田君を睨みつけた。



「お前な……。何で、仁を庇う?仁に対して怒りはないのかよ?」



 怒り?


 そんな次元ではない。


 それ以上に私は。


 彼を憎んでる。


 憎悪が腹の中で蠢いている。


 この恋のためだけに私は生きてきた。


 恋に全てを捧げるなんて馬鹿げてるかもしれない。


 でも、私にはそれしか願うものはなかった。


 だからこそ、こんなにも憎い。


 感情に呑まれて、目の淵に涙が浮かぶ。



「憎い。仁くんが憎くて仕方がないの。殺してやりたい」



 この手で私を選ばなかった彼を殺してやりたい。



「遠慮せず、殺してやれば良い。そんなやつ」



 二人して、物騒な発言だな、と目を細める。


 その拍子に涙が頬をつたって落ちた。




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