精一杯の背伸びを




「……私を選ばなかった、仁くんが憎い。あんな人を選んだ、仁くんが憎い」



 涙が出はじめたら、もう止まらない。


 榊田君がバスタオルを取り出す。



「洗ってある。お前にはバスタオルぐらいが丁度良いだろ」



 ほれ、とバスタオルを私に手渡して、続きを促す。



「ぺったんこの靴だったの。私は踵の高い靴」



「ああ」



「料理だって基本さえできてないの。食べられないもの作って、平気でへらへらして」



「ああ」



「顔だって私のほうがずっと綺麗だし」



「ああ」



「スタイルだって私のほうが良いし。あの人は幼児体系だった」



「ああ」



「話しかたも、おどおどして自信なさげで」



「ああ」



「話し方だけじゃない。おどおどしてばっかりで何もできないの」



「ああ」



「子供みたいな笑い方して、馬鹿みたい」



「ああ」



 榊田君は、私の話に相槌を打つだけ。


 何も言わずに聞いてくれる。


 人を見下している、私を軽蔑もせず、ただ淡々と。



< 181 / 233 >

この作品をシェア

pagetop