精一杯の背伸びを




「そ、それがね」



「ああ」



「それが全部ね、昔の私にそっくりだったの!」



「ああ」



「わ、私は踵の高い靴だって、料理だって、勉強だって……できないこと何でも、できるようにしてきたわ!仁くんに、ふさわしくなりたいって、そのためだけに私は!!何にもできない自分を変えてきた!!」



「ああ」



 踵の高い靴を履いて歩けるように一生懸命練習した。


 料理だって失敗しても何度も挑戦した。


 才能がないって言われても、できるまで諦めなかった。


 仁くんと同じように一位をとりたい。


 だから寝る間も惜しんで勉強して、一流大学に入ってみせた。


 努力した。


 自分を変えたくて。


 仁くんが褒めてくれるような私になりたくて。


 ふさわしくなりたくて。


 それだけを考えてやってきた。


 わき目も振らず、ひたすら走ってきた。


 まっすぐ。


 それなのに。



「何でよりによってあの人なの!?私が過ごした七年って何だったの!?どうして私じゃないの!?」



 絞り出した声はひどく震えていた。


 鼻が詰まって、息ができない。


 苦しい。


 苦しい。



「ねぇ?おかしいでしょ!?どうしてあの人なの!?そうでしょう!?」



 そこまで涙と一緒に吐き出すと、耐え切れずバスタオルに顔をうずめた。


 榊田君は何も言わない。



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