精一杯の背伸びを
「榊田君。我が家に泊まってね。是非、お礼がしたいわ」
やっぱり、そうきたか。
榊田君が遠慮する前に、お母さんはたたみかける。
「小春が、さぞ迷惑をかけているだろうし。私の厚意を無碍にするなんて、つれないことおっしゃらないわよね?」
もうその口調は、榊田君の意思なんて問題にしていない。
強制だ。
「榊田君。うちに泊まって。本当は私が最初に言うべきだった。バイトも当分ないでしょ?」
「ようやく、気づいたの?本当に遅い子。とにかく、そうと決まれば、車に乗って」
お母さんは私と榊田君の荷物を持って歩き出した。
鼻歌を口ずさんでいる。
私は、榊田君の肩に手を置く。
「諦めて、うちに泊まって」
「なんか、水野の母親ってすごいのな」
榊田君は感心したように言った。
もうこの事態についていけているようだ。
そのことに私は感心してしまう。
とにかく、二人でお母さんの後を追った。