精一杯の背伸びを
「その時は小春の料理を楽しみにしている」
「あ、あ、うん!まともに作れるから楽しみにしててね」
「甘ったるいのに苦い、黒焦げ料理の記憶しかないから不安だけどな」
黒焦げと彼が称す料理は卵焼きだった。
色だけでなく、形も卵焼きではなかったから卵焼きにしようと思ったが正確かもしれない。
彼の両親が亡くなってから、私のお母さんがお弁当を作っていた。
その時に、私は卵焼きに挑戦したけれど終わってみれば黒焦げな物体がフライパンにはあった。
そんな代物でも、私は捨てることが出来なかった。彼に私もお弁当つくりを手伝ったことを知って欲しかったのだ。
だから、お母さんが作ったおかずの片隅に入れてもらった。
「確かに黒焦げだったけど、食べなくて良いって言ったもん。勝手に食べたのは仁くん!」
私は一口味見をして、口内に広がる胸焼けするほどの甘さと苦さに、すぐ吐き出した。
だから、彼にも食べなくて良いからと手渡すときに言った。
だけどお弁当箱を返されたときに「不思議な味がした」と言われて、あれを食べたのかと驚いた。
見た目も禍々しく、作った本人でも食べるのには勇気が必要だった代物を。
「小春が一生懸命作ったものだってわかってたから。食べるに決まってる」
彼は、さも当然とそんなことを言った。
私は何と返せば良いのかわからなかった。
そう。
どんなに酷評しても必ず食べてくれた。いつも泣いていた私に呆れていたけど、いつも、いつも助けてくれた。
何故こんなにも彼のことが好きなのかはわからない。
でも、こんなところが私が彼の好きな理由の一つなのかもしれないと思った。